もしもの時に頼れる備えを ACP(アドバンスケアプランニング)のはなし
ACPとは?
最近よく耳にする「ACP(アドバンス・ケア・プランニング)」という言葉。日本語では「人生会議」とも呼ばれていますが、まだ十分に知られているとは言えません。
ACPとは、自分で意思を伝えられなくなったときに備えて、医療やケアについて考え、家族や医療者と話し合っておく取り組みです。よく似た言葉に「アドバンス・ディレクティブ( 事前指示)」や「リビング・ウィル」がありますが、これらは主に「延命治療を希望する・しない」といった医療行為の選択を書面で示すもの。一方ACPは、単なる書類づくりではなく、「自分はどんな人生を大切にしたいのか」「どんな時間を過ごしたいのか」といった価値観を家族や医療者などと共有し、繰り返し話し合う“プロセスそのもの”を指します。

なぜACPが必要なの?
ACPが必要とされる背景には医療の高度化や、高齢化の進行があります。医療が進歩したことで、さまざまな治療が可能になりましたが、その分「どこまで治療を受けるか」という選択が求められる場面も増えました。また、高齢化に伴う認知症や突然の脳卒中などが自分の意思を伝えられなくなるリスクを高めています。
もしもの時、もの言えぬ患者様の代わりに判断を迫られるのはご家族やご友人です。本人の希望が分からず、ご家族やご友人が判断に困ってしまう場面は珍しくありません。元気なうちに話し合っておくことは、ご本人だけでなく、大切な方の心を守ることにもつながるのです。
ACPの手順は?
ここからは、ACPの具体的なステップをご紹介します。
ACPの第一歩は「自分にとって大切なことは何か」を考えることから始まります。たとえば、「家で家族と過ごす時間を大事にしたい」「苦痛はなるべく避けたい」など、ご自身の率直な思いを見つめて考えをまとめましょう。
次に、自身の健康について学びます。持病がある方は、将来どのような経過をたどる可能性があるのか、どんな治療法があり、そのメリット・デメリットは何かを主治医などに尋ねてみてください。たとえば心不全の方であれば、「急に悪くなることがある」「人工呼吸器を使う治療がある」といった情報を知ることで、具体的に考えやすくなるでしょう。流れが具体的に見えてくれば、希望や思いもより具体的に考えられるはずです。
続いては、もしもの時に代わりに伝えてくれる人を選びます。突然の事故や病気で自分の意思を示せなくなるリスクに備え、代わりに意思を伝えてくれる「代理人」を信頼できる家族や友人の中から決めておきましょう。
代理人を決めたら、具体的な希望や思いをご家族や医療者と話し合い、共有します。「もし回復が難しい状態なら、延命よりも苦痛を和らげる治療を選びたい」といった考えを伝え、繰り返し対話していくことが大切です。
最後に、話し合った内容とともに自身の考えをノートなどに記録しておきましょう。この考えは将来的に変わっても構いません。病状や生活環境の変化に応じて、何度でも見直してよいのです。ACPは「最期の話」ではなく、「これからをどう生きるか」を考える前向きな取り組み。元気なうちから、ぜひ話し合いを始めてみましょう。

続いてはACPのポイントやACPが役に立った事例を認定看護師2名の対談でお届けします。
緩和ケア認定看護師によるACPのはなし
がんの患者様を中心に広がるACPの取り組み。その実践に伴走する看護師2名による対談を実施し、ポイントや活用事例を語ってもらいました。ここでは、その模様をお届けします。

千葉西総合病院のACP
秋山 最期はいずれ誰にでも訪れるものですが、自身の死を具体的に思い描けている人は多くありません。医療の現場でも「まったく想像していなかった」「家族とそんな話はしてこなかった」という声が聞かれます。ACPをはじめとした意思決定支援の取り組みは「終末期の話」「死の準備」という後ろ向きのイメージがありますが、本来は「万が一の時も含めて、人生を自分の意思で決めていく」という前向きなもの。突然の事故や病気で自分の意思を伝えられなくなることは誰にでも起こり得ますので、重病の患者様に限らず、誰もが今から取り組めるものだと考えています。
畠山 こうした背景から当院では、これからの人生について考えるきっかけを持っていただこうと、入院患者様全員にACPの質問シートをお渡ししています。このシートは放射線治療室や化学療法センターなど、がん患者様と関わる場を中心に外来にも設置していますので、関心のある方はぜひ手に取ってみてください。ACPの取り組みは松戸市の医師会をはじめ、近隣の施設でも啓発活動が行われるなど、地域でも少しずつ広がりをみせています。どこまで治療を望むか、どこで過ごしたいかといったご本人の希望が分かれば、医療者側も治療や処置の方向性も定めやすくなります
ACPの活用事例とポイント
秋山 救急も多い当院には日々多くの患者様が搬送されてきますが、中にはご高齢で末期がんなど、治療による回復が見込みにくい状態の方もいらっしゃいます。そうした場面でご本人の意思が確認できないと、ご家族が「心臓マッサージを行うかどうか」といった選択を迫られます。私たちはそのたびに、決断の重さに苦しんだり、決めた後も「これで良かったのだろうか」と迷い続けたりするご家族の姿を見てきました。ご本人の意思が示されていれば、希望に沿った対応につながりやすいだけでなく、ご家族も「本人の思いを大切にした判断だった」と受け止めやすくなると感じています。
畠山 特に印象的だったのは、乳がんの患者様の事例です。その方は治療を継続的に行っていたのですが、ある時にがんが脳に転移したことでうまく話せなくなってしまいました。ただ、その方は受診や治療のたびにACPシートを書き直していて、「家族を大事にしたい」「子どもを大事にしたい」という言葉が繰り返し残されていたんです。結果として、ご主人は迷いながらも「本人の一番の願いは家族。なら自宅で過ごせる時間を大切にしよう」と納得して治療方針を決めることができました。まさにACPの記録が“本人の声”として生きた事例です。
秋山 ACPは人生を考えるプロセスそのものですので、考えや話し合いの積み重ねが大切。家族の状況や健康状態の変化などによって考えが変わることもありますので、「何度書き換えてもいいんですよ」ということを強調しています。
畠山 そうですね。そういう意味でも「早めに始めてみる」ことが大事だと思います。がん治療では、緩和ケアまで進んだ段階で「今後どうしますか」と聞かれても、ご本人は弱ってしまって、判断が難しくなるケースもありますから。
秋山 ACPでは最初にご本人の希望が整理されるうえ、医療者との相談で具体的なビジョンが見えるようになりますので、話し合いの段階で本人は「家で最期を迎えたい」、家族は「不安なので病院にいてほしい」といったように、意見が対立しても、建設的な話し合いになりやすいように思いますね。
患者様・ご家族様へ
畠山 ご家族と話すきっかけが難しければ、「救急車を呼んでほしいか」「心臓マッサージはどう考えるか」といった“もしも”の話を一つしてみるといいかもしれません。当院で配っているACPのシートも一つのきっかけになるでしょう。
秋山 悩みがあれば、私たちに遠慮なく声をかけてください。治療のこと、療養先のこと、仕事や生活の心配――小さなことでも大丈夫です。
畠山 当院では誰かに話していただければ、必要なところにつながるように連携しています。希望する医療とケアにつなげるために、今から一緒に考えていきましょう。

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