循環器内科

三尖弁閉鎖不全症(三尖弁逆流症)

三尖弁閉鎖不全症(三尖弁逆流症)とは

三尖弁閉鎖不全症(さんせんべんへいさふぜんしょう、三尖弁逆流症とも)は、心臓弁膜症の一種で、心臓の弁のひとつである三尖弁が正常に閉じなくなる病気です。心臓弁は開閉を繰り返すことで、それぞれの心臓内の部屋が血液を受け取り、送り出す手助けをしています。三尖弁閉鎖不全症では三尖弁が閉じきらない(接合不全)ことで、右心室へ送り出した血液が逆流してしまいます。右心房、右心室は全身から返ってきた血液を肺へ送る役割があり、逆流がひどくなると右心不全と呼ばれる、心臓へ血液が戻りにくくなることによる症状が現れます。

三尖弁の閉鎖不全による逆流(イメージ)

原因について

三尖弁自体に問題はないが、他の病気の影響で逆流が起きる「二次性(機能性)」のものが全体の8~9割を占めるといわれています。

二次性(機能性)三尖弁閉鎖不全症

左心系の病気の影響

僧帽弁閉鎖不全症や大動脈弁狭窄症などの左心臓の弁膜症、あるいは左心不全が原因です。左心臓の働きが悪くなると、その影響が肺を越えて右心系に及び、右心室が拡大して三尖弁が引っ張られます。

心房細動(不整脈)

長期間続く心房細動によって右心房が徐々に拡大し、それに伴って三尖弁も広がって逆流が起こります。近年「心房性機能性三尖弁閉鎖不全症」として特に注目されています。

肺高血圧症

肺の血管の血圧が高くなる病気です。右心室は肺へ血液を押し出す役割があるため、肺の血圧が高いと右心室の負荷が高くなり、右心室が拡大して三尖弁が引っ張られます。

一次性(器質性)三尖弁閉鎖不全症

細菌の感染やリウマチ熱の後遺症、先天性の異常等により、弁の変形や硬化などがおきます。上記の二次性のものと比較すると、比較的まれです。

症状について

初期~軽度の方は無症状である場合が多いと言われています。逆流の程度が進行すると、全身の血液が心臓に戻りにくくなる状態である右心不全による症状があらわれます。

重症度毎の症状と治療方針の目安
重症度 症状 一般的な治療方針
軽度 ほぼ自覚症状なし 原則として経過観察。原因疾患の治療や管理を行います。
中等度 軽いむくみなど 症状に合わせて服薬療法。左心系の手術をする際に予防的に三尖弁の形成術を検討する場合があります。
重度 強いむくみ、腹水、疲れやすさ、息切れなど顕著な症状 カテーテル治療(T-TEER/TriClip™)や外科手術(三尖弁形成術、三尖弁置換術)など積極的な治療が推奨されます。

検査・診断について

心エコー検査(心臓超音波検査)

弁の形態や逆流の程度、血流の速度、開口部の面積などを調べます。一番重要な検査といえます。

経食道心エコー

心臓の肥大や他の弁の状態などを調べます。

その他の検査

  • 血液検査
  • 胸部レントゲン検査
  • 心電図検査
  • 心臓カテーテル検査
  • 心臓CT検査など

診断はこれらの検査結果を総合的に検討、判断し行われます。経過観察中の方は定期的に検査を受け、現在の進行度を適切に把握することが大切です。

治療について

一般的に軽度~中等度の患者様には必要に応じて薬物療法を実施します。重度の患者様に対しては外科手術、カテーテルによる積極的な治療が推奨されます。

薬物療法(経過観察)

心臓の負担を軽減するお薬や症状を和らげるためのお薬を用います。お薬での治療は症状を緩和し、進行を抑えるために行うもので、根本的な治療とはならない点に注意が必要です。また定期的に検査を受け、病状が進行していないかチェックを受けていただくことが大切です。

カテーテル治療

カテーテルといわれる細い管を使用して、足の付け根などから心臓にアプローチするT-TEER(経皮的三尖弁接合不全修復術)と呼ばれる治療が行われます。実際の手技としては、折りたたまれた小さなクリップをカテーテルにより三尖弁の位置まで運び、留置します。逆流を起こしている箇所の弁を挟んで接合することで隙間が狭くなり逆流を軽減します。胸を開かず、人工心肺も利用しないため、体への負担が軽く(低侵襲)、入院期間を短縮できることも特長といえます。

現在、国内で使用されているデバイスは「TriClip™(トライクリップ)」があります。

TriClip™システム

TriClip™治療についてみる

外科治療

ご自身の弁を修復する「弁形成術(TAP)」と弁を置き換える「弁置換術(TVR)」とがあります。昨今では胸の骨を切らない低侵襲心臓手術(MICS)が行われており、さらにはロボット支援手術(ダビンチ心臓手術)も実施されています。左心系(僧帽弁や大動脈弁)の手術と同時に、複合手術として行われる場合がほとんどです。

生活における注意点について

三尖弁閉鎖不全症と診断を受けた方の生活上の注意

心臓への負担をおさえるために塩分制限が必要です。6g/日が目安となります。飲酒は適量を心がけ、喫煙されている方は禁煙しましょう。十分な睡眠をとり、バランスの良い食事を心がけることも大切です。お薬を出されている方は医師の指示通りに服用しましょう。お薬が多めで、飲み忘れが怖い方は薬剤の一包化をご検討いただいても良いと思います。

毎日同じ時間に体重を測定することも大切です。数日間で急激に体重が増えた場合(2〜3kg増など)は、心不全の悪化により体内に水分がたまっているサインですので、早めに医師に相談しましょう。

また、医師の指示に従い定期的に検査を受け、弁や心臓の状態を確認することはとても重要です。

治療を受けた方の生活上の注意

抗凝固薬・抗血小板薬(血液サラサラの薬)を服用されている方は出血しやすく止まりにくい傾向にあります。ケガをすることがないように十分に気を付けていただくと共に、出血が止まらない場合は医療機関に相談しましょう。歯科や眼科を受診する際はご自身がこれらのお薬を服用していることを伝えましょう。

適切な運動は予後の改善に繋がると言われていますが、どの程度の運動が適切であるかは患者様一人ひとりの状態によって異なります。心臓リハビリテーションでは、医師や理学療法士の指導のもと運動を行いますので、安全かつ効果的に運動が行えます。当院でも実施しておりますのでご興味があれば医師にご相談ください。

人工弁を留置された方は細菌感染による感染性心内膜炎のリスクがあります。感染性心内膜炎はお口の中の常在菌が原因となる場合が多く、毎日の丁寧な歯磨きや定期的に歯科医院でクリーニング(歯石除去)を受け口腔内を清潔に保つことが推奨されます。また、出血を伴う歯科治療を受ける際は、血液内に細菌が侵入するリスクがあるため、予防的に抗菌薬を投与することが強く推奨されています。

よくある質問と回答

Q
三尖弁閉鎖不全症とはどのような病気ですか?
A

心臓の中にある「三尖弁(さんせんべん)」という逆流防止の扉(心臓弁)が完全に閉じなくなることで、血液が逆流してしまう病気です。多くの場合、弁そのものの異常ではなく、他の心疾患や不整脈などの影響で心臓の部屋が大きくなり、扉の枠組みが広がってしまうことが原因で起こります。

Q
三尖弁閉鎖不全症と三尖弁逆流症は異なる病気ですか?
A

同じ病気です

三尖弁閉鎖不全症と三尖弁逆流症は同じ病気です。
国内では標準的に「三尖弁閉鎖不全症」という病名で呼ばれていますが、英語での病名「Tricuspid Regurgitation」を直訳した「三尖弁逆流症」も一部で使われているため、この2つが混在しています。
なお、三尖弁閉鎖不全症の医療上の略語は「TR」ですが、これは上記「Tricuspid Regurgitation」の頭文字からとったものです。

Q
三尖弁閉鎖不全症と診断されたら手術が必要なのでしょうか?
A

軽度~中等度であれば経過観察が可能です

軽度~中等度であればお薬での治療を行いながら経過観察で対処可能な場合がほとんどです。
外科手術やカテーテル治療が推奨されるのは、逆流が重度で顕著な症状があり、それらが薬ではコントロールしきれない方となります。
なお、中等度の方でも僧帽弁など左側の心臓の手術を受ける際に、将来の悪化を防ぐ為に予防的に三尖弁形成術を同時に行うことが推奨される場合があります。

Q
軽度の三尖弁閉鎖不全症の場合、運動に制限はありますか?
A

原則として無症状であれば、軽く息がはずむ程度の運動は問題ありません。
ただし、息を止めて力むような激しい筋トレ(ウェイトトレーニング)や、心拍が著しく上昇する激しい運動は避けましょう。
また、胸の痛みやめまい、強い動機、息切れなどを感じた場合はすぐに運動を中止しましょう。

いずれにせよ、現在のご自身の状態ではどの程度の運動が可能で、推奨されるかについては主治医に確認、相談しましょう。

Q
治療をしないと寿命に影響はありますか?
A

重度の三尖弁閉鎖不全症に対し、手術、カテーテル治療を行わず薬物療法のみを行った場合、5年生存率は約30%〜54%(5割~7割の方が命を落とす)という報告があり、明白な影響が発生します。

重度の患者様は必要に応じて手術、カテーテル治療を受けることが大切であると同時に、症状のない軽度のうちから原因疾患の治療に取り組み、重症化させないように対処することが推奨されます。

医師からのメッセージ

心臓弁膜症は早期発見と適切な治療が非常に重要と言われていますが、自覚症状のないまま進行するために実際には治療が必要な状態にあるにも関わらず、放置してしまっている方も非常に多いと推定されています。

当院は心臓弁膜症治療において、カテーテル治療と外科手術の双方で高度な治療を実施しており、手術件数は合計で年間300例を超える実績を有する全国でも屈指の治療施設です。

息切れや胸の痛み、以前より疲れやすいなどの気になる症状があれば「年齢のせい」と放置することなく一度当院循環器内科(SHDセンター)にご相談ください。

副院長・循環器内科主任診療部長
SHDセンター長
桃原哲也

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この記事を書いた医師

桃原 哲也(とうばる てつや)
千葉西総合病院 副院長
循環器内科主任診療部長・SHDセンター長