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MCI(軽度認知障害)のおはなし
2026.07.08

健常な状態と認知症の中間にあたる状態を指すMCI(軽度認知障害)。MCIは放置すれば認知症に進行する可能性が高いものの、早期に発見し、予防的に対応すれば、健常な状態に戻る可能性もあります。

MCIとは

最近、認知症とともに「MCI(軽度認知障害)」も注目を集めるようになってきました。MCIとは、健常な状態と認知症の中間にあたる状態を指します。具体的には、「約束を忘れてしまう」「同じ話を何度もしてしまう」「財布や鍵をどこに置いたか思い出せない」といった変化が起きてはいるものの、金銭管理や買い物、服薬管理などは何とか行えているような状態です。
言うなれば、MCIは認知症の手前にある「グレーゾーン」。放置すれば認知症になる可能性が高まりますが、早期に発見し、予防的に対応すれば、健常な状態に戻る可能性もある段階なのです。
厚生労働省の2022年の推計では、日本国内で65歳以上の約15.5%、およそ558万人がMCIに該当するとされています。
特に70代後半から80代で顕著に症状が現れるため、現在の高齢化に伴って今後も該当者が増加すると予想されています。

MCIのサイン

MCIは大別すると「物忘れ型」と「非物忘れ型」の2種類に分かれます。物忘れ型の主な特徴は記憶力の低下です。たとえば、「最近の出来事を思い出せない」「数分前に聞いた話を忘れてしまう」「同じ話を何度も繰り返す」といった症状が見られます。

一方、非物忘れ型では、注意力や段取り力、空間認知機能などの低下が目立ちます。「料理や片付けの手順が悪くなった」「知っている道で迷うようになった」「『あれ』『それ』などの言葉が増えた」「漢字が思い出しにくい」「読み書きが以前より苦手になった」などの変化が現れることがあります。

こうした変化が複数当てはまる場合は、「年齢のせい」と決めつけずに、一度かかりつけ医などに相談することをおすすめします。

予防のポイント

MCIの方のうち年間5〜15%が認知症へ移行し、5年以内には約半数が認知症になるとされています。症状が進行すれば、それまでできていた日常的な作業が困難になってきますので、早めに気づいて対策を始めることが重要です。

MCIの先にある認知症を予防するためには、早い段階からの生活改善が効果的です。最新の研究では、認知症のリスク因子がライフステージごとに示され、これらを改善することで、認知症の約45%は予防や発症遅延が可能であることが明らかになってきました。

特にターニングポイントとなるのが壮年期。壮年期においては、難聴、高血圧、運動不足、糖尿病、脂質異常症、喫煙、肥満、過度な飲酒など、さまざまなリスク因子が示されています。中でも壮年期最大のリスク因子とされるのが難聴です。聞きづらさが出てきたら放置せず、補聴器の活用などを検討しましょう。

それから、壮年期には生活習慣も見直したいところ。中でも忘れられがちな運動は、汗ばむ程度の強度で週3回以上を続けることを推奨します。認知症のリスク因子には頭部外傷もありますので、サイクリングなどを行う際には、頭を守るヘルメットを着用することも忘れずに。

老年期になってからは、社会的孤立が主な認知症リスクとなるため、外出や会話の機会を増やし、社会とのつながりを保つことが大切です。

日々の生活の中でこうしたリスク因子を取り除き、認知機能の維持に努めていきましょう。

検査や診断について

MCIは正常な状態と認知症の中間の状態であるため、これまでは認知症の治療を開始することができず、経過観察にとどまっていました。しかし近年、MCIの中でもアルツハイマー病を背景とするタイプを早期に発見できるようになったことで一部のMCIに対して治療が行えるようになってきました。

アルツハイマー病由来のMCIと特定するためには、まず問診や認知機能検査を行って認知症以外の疾患の可能性を除外します。問診では、物忘れの内容や具体的な症状を伺い、認知機能検査では、時間や場所の認識、記憶力、注意力、計算などで認知機能を測定・評価します。

こうした診察で一定の基準を満たし、MCIや認知症が疑われると、その原因を探る「アミロイドPET検査」や「髄液検査」へと進みます。アミロイドPET検査はアルツハイマー病の原因物質とされる「アミロイドβ」が脳に蓄積しているかを画像で確認する検査。一方、髄液検査は、脳や神経の周囲を流れる髄液を採取し、アミロイドβなど特定のタンパク質を調べる検査です。これらの検査が登場したことでアルツハイマー病由来のMCIの早期発見が可能になりました。

新しい治療について

アルツハイマー病由来のMCIであることが強く疑われた場合でも、全ての人に治療が適用されるわけではありません。MRI検査を安全に受けられることや、脳のむくみや脳出血の跡などがなく副作用のリスクが低いこと、さらに、治療は長期間にわたるため、家族同伴での継続的な通院が可能なことなど、いくつかの前提条件をクリアできて初めて、治療を始めることができます。

アルツハイマー病由来のMCIや初期アルツハイマー病の治療には、「抗アミロイドβ抗体薬」という新しい治療薬が登場しています。これは、脳内に異常に蓄積したアミロイドβを取り除き、病気の進行を遅らせる治療薬で、2023年12月から保険診療で使用できるようになりました。病気の根治はできませんが、病気の進行に直接働きかける初めての治療薬として、大きな期待が寄せられています。

現在、国内で使用されている抗アミロイドβ抗体薬は、「レカネマブ」と「ドナネマブ」の2種類。いずれも点滴による治療で、定期的な通院が必要です。それぞれ投薬のスケジュールや頻度は異なりますが、治療効果や安全性に大きな差はないため、通院頻度や治療期間を踏まえ、ご本人やご家族と相談しながら選択します。

抗アミロイドβ抗体薬には副作用として、脳のむくみや小さな出血が生じる可能性があります。多くは無症状ですが、まれに頭痛や意識障害などが起こるため注意が必要です。特に治療の初期に現れやすいため、定期的なMRI検査を行いながら慎重に治療を進めていきます。

当院の診療体制

認知症は、発症する20年ほど前からすでに変化が始まっているともいわれています。MCIの段階であれば、引き返せる可能性も十分にあるため、「少し気になる」という早い段階で相談することが大切です。

当院では、抗アミロイドβ抗体薬の治療に豊富な実績を持つ認知症専門医が診療・治療にあたり、患者さん一人ひとりに適した医療を提供しています。また、ICUを備えた急性期病院であるため、万が一重い副作用が起きた際にも速やかな入院対応が可能です。さらに、本年は「もの忘れMCI外来」を開設し、医師をはじめ看護師・検査技師・リハビリテーション部などが連携するサポート体制も整いました。

物忘れが気になっている方、またご家族の物忘れが心配な方は、一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。

おおが まさる 大賀 優
脳神経外科
日本脳神経外科学会 専門医・指導医/日本認知症学会 専門医・指導医/日本脳卒中学会 専門医・指導医