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無痛分娩のはなし
麻酔科 主任部長
關根 一人

今、お産の選択肢として広がりつつある「無痛分娩」。その詳細について、専門医が詳しく解説します。

無痛分娩とは?

無痛分娩とは、麻酔を使って陣痛や分娩時の痛みを和らげながらお産をする方法です。具体的には、背中から細い管を入れて麻酔を投与する「硬膜外麻酔」という方法を用いてお産を行います。
無痛分娩は出産の痛みを抑えながらも、お母さんの意識がしっかり保たれるため、赤ちゃんの誕生を元気に迎えられることが大きな特徴です。適切に管理された硬膜外麻酔では、赤ちゃんへの影響も基本的にありません。
硬膜外麻酔の際、背中に針を刺すことに恐怖を感じる方もいるでしょう。しかし、この麻酔の前に細い針で局所麻酔をしますので、痛みは一般的な点滴よりも少ないと感じる方がほとんどです。硬膜外麻酔の準備も5分ほどで終了しますので、大きな負担や恐怖なくお産に臨んでいただけると思います。
名前に「無痛」と付いていますが、痛みをゼロにするわけではありません。完全に痛みをなくしてしまうとお産がスムーズに進まなくなるケースもあるため、必要最小限の痛みに抑えられるよう麻酔を調整しながら、お産をサポートします。その意味では、痛みを“なくす”というより“和らげる”「和痛分娩」と考えていただくとイメージしやすいでしょう。
こうした無痛分娩を選択する方は、近年増加しています。2024年に厚生労働省が示したデータによると、全国では約16%、およそ7人に1人が無痛分娩を選択するようになりました。東京都に絞ると約35%と3人に1人、当院のある千葉県でも約25%と4人に1人にまで広がっています。

メリットは?

無痛分娩の一番の魅力は、「とにかく痛い」といわれる出産の痛みを大きく和らげられることです。
痛みのない状態を「0」、想像できる最も強い痛みを「10」とすると、通常のお産では「10」と答える方がほとんどです。それが無痛分娩では「3」程度まで和らぎ、会話したり、スマホを見たりできるくらいになります。中には「前回のお産が100だとしたら、今回は3くらい」と話される方もいるほど、痛みが軽減されるケースもあります。
痛みが少ないので、お母さんの体力を温存しやすく、出産後も比較的元気に、授乳をはじめ、赤ちゃんとの時間を持ちやすくなることも大きなメリット。「出産直後から赤ちゃんに積極的に関われてよかった」と話される方も少なくありません。
痛みを和らげることは、お母さんだけでなく赤ちゃんにとってもメリットがあります。強い痛みが続くと呼吸が乱れたり、血圧が上昇したりして、赤ちゃんにも負担がかかる場合があります。無痛分娩では、落ち着いて呼吸しやすく、血圧の過度な上昇も抑えられるため、赤ちゃんへの負担も軽減できるのです。

デメリットやリスクは?

無痛分娩には多くのメリットがある一方、知っておいていただきたいデメリットもあります。無痛分娩では麻酔によって子宮の収縮がやや弱くなるため、お産にかかる時間が通常より長くなったり、吸引分娩などの処置が必要になったりする可能性が若干高まります。とりわけ初産の方は分娩が長引きやすく、場合によっては2日経っても出産に至らず、改めて仕切り直すことも珍しくありません。
そのため当院では現在、安全性や分娩の進みやすさなどを考慮し、無痛分娩の対象を出産経験のある経産婦さんに限定しています。また、背骨が過度に曲がっている方、BMIが40を超える方、血液が固まりにくい方など、硬膜外麻酔を安全に行うことが難しい場合も対象外となります。詳しい適応については事前に医師からお伝えします。
麻酔に伴う合併症として、まれに吐き気や発熱などが起こることもあります。しかし、多くは一過性で、薬の使用や、麻酔の変更で対応できます。分娩中はお母さんの状態を細かくモニタリングしていますので、症状が現れた場合には速やかに必要な処置を行います。
また、非常にまれですが、局所麻酔薬が血管内に入る「局所麻酔薬中毒」が起こる可能性もあります。当院では、普段から外科手術などで同様の麻酔を数多く手掛ける専門の麻酔科医が担当し、適切な麻酔管理を行っています。万が一異常が生じた場合にも、迅速に処置できる体制を整えていますのでご安心ください。
なお、「無痛分娩を選ぶと帝王切開になりやすいのでは?」というご質問もいただきますが、無痛分娩によって帝王切開の割合が高まるという医学的な根拠はありませんので、心配する必要はありません。

無痛分娩の流れは?

当院では、出産する日をあらかじめ決める「計画無痛分娩」を採用しています。自然な陣痛を待つのではなく、陣痛促進剤を使いながら計画的にお産を進めていく方法です。
無痛分娩を希望される方には、まず妊娠30週までに「無痛分娩説明外来」を受診していただきます。そこで麻酔科医や産婦人科医、助産師から無痛分娩の流れや注意点などをご説明します。その後は通常通り定期健診を受けていただき、計画無痛分娩日の前日に入院します。
お産の当日は、朝8時頃に子宮口を開くための処置を行い、その後、一度食事を取っていただきます。8時半頃には硬膜外カテーテルを挿入し、9時頃から陣痛促進剤の投与を開始。陣痛が始まり、ある程度痛みを感じるようになった段階で麻酔薬を投与します。
お産の間は、陣痛計で陣痛の強さや間隔、赤ちゃんの心拍を確認するとともに、心電図や血圧計、パルスオキシメーターなどでお母さんの状態もしっかりと見守ります。痛みの程度が前述の「3」程度に保たれるよう麻酔薬を調整しながら、出産までサポートしていきます。
出産までの時間には個人差がありますが、当院では経産婦の方を対象としているため、早い方ではお昼頃、遅い方でも18時頃までには出産を終えています。その後、母子ともに経過が順調であれば、5日ほどで退院となります。

無痛分娩にかかる費用は?

当院での無痛分娩の費用は、基本の分娩費用50万円に無痛分娩の費用8万円を加えた58万円。分娩費用50万円は出産育児一時金で賄うことができるため、実質的な負担は8万円(大部屋利用の場合)です。この無痛分娩費用を含む出産にかかった費用(出産育児一時金を引いた実質負担額)は医療費控除の対象となります。

当院を選ぶメリットは?

当院が最も重視しているのは、お母さんと赤ちゃんの「安全」です。厚生労働省が定める体制に沿って設備を整え、スタッフも所定の講習を受講しています。麻酔は専門の麻酔科医が担当し、一人ひとりの状態を細かくモニタリングしながら適切に管理することで、合併症のリスクを最小限に抑えます。さらに、産婦人科のスタッフや助産師にも無痛分娩の管理を十分に経験してきたスタッフを配置し、チームでお産を支えています。
加えて、総合病院ならではの診療体制を生かし、万が一予期せぬトラブルが起きた場合にも、迅速に対応できることが当院の強みです。

患者様へのメッセージ

無痛分娩には、お母さんの負担を和らげ、出産後に余力を持って赤ちゃんと向き合いやすいという大きな魅力があります。当院では、その良さをより多くの方に届けたいという思いから、安心してお産に臨める体制を整え、利用しやすい価格で無痛分娩を提供しています。新しい命を迎える大切なひとときが、穏やかで幸せな時間となるよう、私たちが心を込めてサポートいたします。ぜひ当院でのお産を選択肢の一つとしてお考えいただければと思います。

麻酔科主任部長 關根 一人


助産師からのメッセージ

安心してお産に向き合えるよう、助産師がそばで支えます

助産師 安藤 茜(あんどう あかね)

無痛分娩では麻酔科医や産婦人科医だけでなく、私たち助産師もお母さんと赤ちゃんの状態を見守りながら、お産をサポートします。
お産の前には、お母さんの体調や不安を伺い、お産の流れや麻酔を使用した際の変化などを丁寧に説明するとともに、「どんなお産にしたいか」をご家族と一緒に考え、「バースプラン」を作成していただいています。例えば、リラックスするために流したい音楽や好きな香り、付き添うご家族にしてほしいことなど、希望は人それぞれです。お産の最中は、その場でいろいろなことを考えたり、判断したりする余裕がなくなることもあります。だからこそ、事前にご夫婦で希望を共有しておくことが、安心してお産に臨むための大切な準備になります。
お産の当日、麻酔を開始してからは、私たちもお母さんの血圧や脈拍、赤ちゃんの心拍などを継続して確認します。無痛分娩では痛みが軽減される分、いきむタイミングや赤ちゃんが下がってくる感覚がわかりにくくなることがあるため、私たちが子宮口の開き具合や赤ちゃんの位置を確認しながら、「今、力を入れましょう」「このように呼吸しましょう」と一つひとつお伝えし、一緒にお産を進めていきます。
私たちのサポートは赤ちゃんが生まれたら終わりではありません。出産後には、実際に分娩に携わった助産師とお産を振り返る「バースレビュー」を行っています。出産中は夢中だったために、「うまくできなかった」と感じてしまうお母さんも少なくありません。そんなとき、「ここがしっかりできていましたよ」「とても頑張っていましたよ」と助産師視点からの事実もお伝えしながら、一緒に経験を振り返り、気持ちを整理していきます。
お産への思いや不安は、一人ひとり異なります。無痛分娩を選ぶことに、後ろめたさを感じる必要はまったくありません。メリットとデメリットを理解したうえで、ご自身が納得できる方法を選ぶことが何より大切です。不安や疑問は、どんな小さなことでも遠慮なくお話しください。私たち助産師も、お母さんとご家族の思いに寄り添いながら、一緒にお産を支えていきます。

せきね かずと 關根 一人
麻酔科主任部長