循環器内科

拡張型心筋症

拡張型心筋症とは

拡張型心筋症(かくちょうがたしんきんしょう)は、心室の壁が引き伸ばされて薄くなり、心臓が大きく膨らんでしまう病気です。この状態になると、心臓のポンプ機能(収縮して血液を送り出す機能)が著しく低下します。日本では特定疾患として難病に指定されており、多くの患者様が治療を続けています。

心筋の収縮力が低下すると、本来全身に届けられるべき酸素や栄養が不足します。このポンプ機能の不全は「心不全」という状態を引き起こし、日常生活に様々な影響を及ぼします。

おもな心筋症のタイプ

症状

代表的な症状としては以下があります。

階段の上り下りで息切れを感じる

初期に現れやすいのが、運動時の息切れです。以前は平気だった階段や坂道で胸が苦しくなったり、呼吸がしにくくなったりします。これは心臓が全身の血液需要に応えられなくなっているサインであり、見逃してはならない重要な症状です。

足のむくみや体重増加が目立つ

心機能が低下すると血液の循環が滞り、体内に水分が溜まりやすくなります。特に足の脛や足の甲にむくみが出たり、短期間で急激に体重が増えたりする場合は注意が必要です。これは心臓のポンプが悲鳴を上げている、うっ血状態の現れです。

横になると苦しくて眠れない

症状が進行すると、夜間に横になって寝ようとした際に息苦しさを感じる「起坐呼吸(きざこきゅう)」が現れます。体を起こすと楽になるのが特徴で、これは肺に水が溜まり始めている兆候です。睡眠中に息苦しさで目が覚める場合は、早急な医師への相談を推奨します。

原因

原因が不明な場合も多い病気ですが、以下は原因となりうることが知られています。

遺伝子変異

拡張型心筋症の約2割から3割は、遺伝子の変異が原因である「家族性」のものとされています。血縁者に同じ病気の方がいる場合は、若いうちから発症する可能性もあります。近年では遺伝子解析が進んでおり、発症のリスクを予測する研究も続けられています。

心筋炎や二次的な要因による影響

ウイルス感染による心筋炎が完治せず、心筋がダメージを受け続けることで発症するケースもあります。また、大量の飲酒や特定の抗がん剤副作用、妊娠・出産を機に発症する場合も珍しくありません。

検査・診断方法

問診や聴診などの身体診察

まずは医師による問診で、自覚症状や家族に心臓病の人がいないかなどを詳しく確認します。その後、聴診器で心臓の雑音や肺のうっ血の有無を調べたり、むくみの状態をみたりすることで、心不全の兆候がないかを確認する基本的な診察を行います。

心電図検査

心臓が動くときに発生する微弱な電気信号を記録する検査です。心筋症に特徴的な波形の異常や、危険な不整脈の有無を確認することができます。健康診断でも行われる基本的な検査ですが、心筋症の診断において非常に重要な情報が得られます。

胸部X線

X線を使って胸部の写真を撮り、心臓の大きさや形を確認する検査です。心筋症によって心臓が拡大している(心拡大)場合や、肺に水が溜まっている(肺うっ血)状態がわかります。心不全の重症度を評価するためにも用いられます。

心エコー検査

超音波を使って、心臓の動きや大きさ、弁の状態などをリアルタイムで観察する検査です。心筋の厚さや心臓のポンプ機能の低下具合を直接評価できるため、心筋症の診断や種類の特定において中心的な役割を果たします。患者さんへの負担が少ない検査です。

心臓MRI検査

強力な磁気と電波を使って、心臓の断面を詳細に画像化する検査です。心エコー検査だけでは分からない心筋の性状(線維化や炎症など)を詳しく評価することができます。心筋症の種類の鑑別や、より正確な診断のために行われることがあります。

心臓カテーテル検査

足の付け根や腕の血管からカテーテルという細い管を心臓まで挿入し、心臓内の圧力測定や造影剤を使った血管撮影、心筋の一部を採取(心筋生検)する検査です。他の検査で診断が確定しない場合に行われ、心筋症の確定診断に繋がります。

治療法

薬物療法

薬物療法の中心となるのがベータ遮断薬です。この薬は心臓の過剰な働きを抑え、心筋を休ませることで機能の回復を促します。服用開始時は体調に変化が出やすいですが、長期的に飲み続けることで心不全の悪化を防ぎ、寿命を延ばす効果が証明されています。

また利尿薬で体に溜まった過剰な水分や塩分を尿として排出させます。これにより心臓に戻ってくる血液量が減り、心臓への負担が劇的に軽減されます。むくみが解消されることで身体が軽くなり、息苦しさなどの自覚症状が改善される効果があります。

その他、ARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)SGLT2阻害薬といった、いくつかの薬剤を組み合わせる場合もあります。

服薬は病状の進行を抑え、生活の質を維持することが目的です。医師の指示に従って、根気よく服薬を続けることが重要です。

ICD/CRT-D(植込み型除細動器)治療

薬物療法だけでは効果が不十分な場合に行われます。危険な不整脈による突然死を防ぐための「ICD(植込み型除細動器)」や、心臓のポンプ機能を補助する機能もある「CRT-D(両心室ペーシング機能付き植え込み型除細動器)」などがあります。デバイスを体内に植え込む治療法です。

当院ではリード線を心臓に入れないため、感染に強く、ショックによる心筋障害が少ない等の優れた特徴があるS-ICD(皮下植込み型除細動器)の植込みも行っています。

CRT-D(両心室ペーシング機能付き植え込み型除細動器)
心臓移植

若年者の場合は、心臓移植が適応となる場合もあります。

日常生活で守るべきこと

塩分制限を徹底する

心不全の悪化を防ぐため、1日6グラム未満を目標とした減塩生活が基本となります。出汁を活用したり、酸味や香辛料を工夫したりすることで、美味しく減塩を続ける知恵を身につけましょう。塩分を控えることは、心臓の肥大を抑え、むくみを予防する最も効果的なセルフケアです。

安静と運動のバランスを維持する

無理な激しい運動は禁物ですが、過度な安静も筋力低下を招きます。医師から許可された範囲内で、息が切れない程度のウォーキングなどを行い、心肺機能を維持しましょう。その日の体調に合わせて活動量を調節し、疲れを感じる前に休むという「頑張りすぎない習慣」が大切です。

よくある質問と回答

Q
予後や生存率は?
A

かつては予後不良とされていた病気ですが、医療技術の進歩により生存率は著しく向上しています。
また自己管理を徹底することで予後は大きく改善されます。医師の指示通りに薬を飲み続け、心臓への負担を最小限に抑える生活を心がけてください。ご自身の努力が直接、生存期間の延長と生活の質の維持に繋がります。

Q
診断を受けても仕事は続けられますか?
A

重度ではなく、デスクワーク中心のお仕事であれば就労継続が可能な方が多い印象です。重いものを持つなどの肉体労働は制限されることがあります。

Q
医療費の助成制度はありますか?
A

拡張型心筋症と診断された方は、重症度などの条件を満たすと医療費の助成を受けることができます。申請には医師の診断書などが必要となるため、まずは主治医や病院の相談窓口、お住まいの地域の保健所などに相談してみましょう。また、身体障害者手帳の申請が可能な場合もあります。

当院からのメッセージ

拡張型心筋症は、早期に適切な診断を受け、粘り強く治療を継続することが非常に重要な病気です。

症状が落ち着いている時期であっても、心臓の負担を減らすためのコントロールを怠らないことが、数年後、数十年後の健康を守る鍵となります。また、万が一症状が変化した場合でも、現在は多様な治療の選択肢が存在します。

科学的根拠に基づいた治療と、あなたのライフスタイルを尊重したケアを両立させることで、病気とうまく付き合っていく道を探りましょう。私たちは常にあなたの心臓の健康を見守っています。

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