当院における
ロータブレーター治療について

著者
三角 和雄
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千葉西総合病院 院長・心臓病センター長
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ロータブレーターとは

ロータブレーターとは、高速回転アテレクトミーと呼ばれる血管治療器具のことです。

冠動脈などの人間の体内の動脈は、コレステロールがたまって血管が硬くなり、さらにつまってくると、血流が悪くなります。これを動脈硬化と言います。それが一定の限度を超えると、その臓器の血の巡りが悪くなり、臓器障害を引き起こします。

その一番身近な例が狭心症です。狭心症では、心臓の筋肉(心筋)に酸素や栄養を与える血液の通り道である冠動脈(人間では3本あります)に動脈硬化が起こり、心筋への血の巡りが悪くなり、運動時などに胸の痛みを生じることになります。
さらに進んで冠動脈が100%つまってしまった状態になると、心筋が壊死を起こす心筋梗塞の状態となります。
このような狭心症、さらに進んだ心筋梗塞を全部合わせて虚血性心疾患と呼び、その背景にあるのが冠動脈硬化症です。

このような冠動脈のつまりかけた、あるいはつまってしまった状態を改善する有力な方法が、カテーテルという管を用い、局所麻酔下に行う経皮的冠動脈インターベンション(PCI)と言う方法です。これは循環器内科医が担当します。
もう一つの方法は、つまった先に迂回血管(バイパス)をつなぐ冠動脈バイパス手術(CABG)であり、これは心臓血管外科医が担当します。

それぞれ一長一短がありますが、ここでは、より体に優しいPCIについて解説します。PCIでは主に小さい風船(バルーン)を先に述べたカテーテルを通して冠動脈の病変まで進め、そこで病変を拡張し、つまりかけた、あるいはつまった部分を拡げます。

今から30年前頃まではバルーンで拡げるのみで、その後病変部位が再び縮んでしまうことがありましたが、1993年にステントという金属のパイプが導入され、バルーンによる拡張後の血管の“縮み”が解決されました。

その後ステント内にまたコレステロールや血の塊がつまってくることによる再狭窄の問題が起こるようになりましたが、コレステロールがたまるのを防ぐ薬を塗り込んだステント(薬剤溶出性ステント)が開発されました。
現在のステントは全てこの薬剤溶出性ステントで、最小サイズは2mm、最大サイズは4.0mmとなっています。

さて、通常バルーンで拡げてからステントの留置、というのが王道ですが、血管によっては、コレステロールが石のように固くなる「石灰化」という現象を生じることがあります。この石灰化が高度になると、それこそ「石のように固く」なるので、少し固めのゴムのような風船(バルーン)では拡がらないし、バルーンによってはじめて拡がるステントも同様に拡がらなくなります。
そこで、石のような固い病変を砕くものとして、石よりも固いダイヤモンドの使用が発案されました。実際には工業用ダイヤモンドの粒子を散りばめた“米粒”型のドリルを、血管内で高速回転(20万回/分)で回しながら前進、後退させて病変を削る技術ですが、これがロータブレーター(Rotablator)というものです。

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ロータブレーター30年の歴史

実は、ロータブレーターは最初のステントより早く開発されたもので、古い治療道具なのです。巷では“新しい技術”としてロータブレーターを紹介している病院もあるようですが、実は古いもので、その歴史はステントより古く、1991年つまり今から30年以上前に逆上ります。その頃は、現在の薬剤溶出性ステントは影も形もありませんでした。

「ロータブレーターがステントよりも古い」というと、驚かれる方も多いと思いますが、実はロータブレーターはDavid Auth, Ph.D.という物理学者によって発明された血管治療器具でした。

その原理は、高速回転をするドリルが固い物質だけを削り、軟らかい箇所はツルンツルンと滑ってしまう、と言う物理学の法則、「ディファレンシャル・カッティング(Differential Cutting)」に基づいているのです。

すなわち、私が以前に、「世界のスーパードクター」や「世界一受けたい授業」に出演したときに実演してみせたように、この高速回転ドリルは、卵の殻を削ることはできても、掌をけずることはありません。Auth博士はそれを基に、圧縮ガスの圧エネルギーを回転エネルギーに変えることに成功したのです。

テレビ出演の際、これに最も興味をもったのが、タレントのビートたけしさんでした。ビートたけしさんは実は工学部出身のガチガチの理系の人で、番組中CMの間に、どのようなメカニズムで圧エネルギーを回転エネルギーに変えるのかという専門的な質問をしてこられました。この高速回転ドリルは、先端にダイヤモンド粒子を散りばめてあるために、金属を除く、石のような固い石灰化物質を削ることができるのです。

最初にこのロータブレーターは足の動脈が詰まってくる、閉塞性動脈硬化症(末梢動脈疾患)に対して開発されました。その論文を示します。

その当時はアメリカでも公式に健康保険適応の承諾を得ておらず、結局は足の血管ではなく、心臓特に冠動脈の石灰化病変に対して使用されるようになりました。
最初はAuth博士の作ったHeart Technology, Inc.という会社が製造販売をしておりましたが、まもなくBoston Scientificという会社に買収され、以来Boston Scientific社が製造販売を全世界的に行っています。

私がこのロータブレーターに出会ったのは、1993年のことでした。当時私は、カリフォルニ大学アーバイン校の心臓研修プログラムに所属していて、そろそろ通常のバルーン、バルーンによる治療を十分な数を経験して終わるところでした。
その関連病院のひとつにLong Beach Memorial Hospitalという病院があり、そこのベテラン医師の一人の医師が、このロータブレーターの施行医だったのです。その後UCLA関連のGood Samaritan病院の心臓血管カテーテル専門プログラムに異動してから、本格的にこのロータブレーターの訓練を始めました。
当時はMaeurice Buchbinder先生やRichard Fortuna先生といった生粋のロータブレーター施行医に最初に学び、その次にGood Samaritan病院のカテーテル部門長であるRay Matthews先生およびSteven Burstein先生に直接指導を受けました。
もちろんロータブレーター以外の治療deviceも、ありとあらゆるものの指導を受け、朝8時から夕方5時くらいまで毎日カテーテル治療に明け暮れていました。
Good Smaritan病院はアメリカ西海岸で最も古い病院の一つで、最初にCTが導入されましたが、Robert Kennedy上院議員(John F. Kennedy大統領の弟)が銃撃されたとき運ばれた病院であり、また歌手のMadonnaもこの病院で出産されています。ベッド数は450床程度ですが、西海岸随一のカテーテル治療検査数を誇り、カテーテル治療専修医は私と私の一年上の女性医師たった2人でした。ですから、一人あたりの症例数は、桁外れに多く一年で、アメリカの他の病院の5年分程度の症例を経験することができました。ですから3年間で非常にカテーテル検査数の多いアメリカの病院で15年間在籍した数と同じくらいの経験をすることができました。

当時のロータブレータ―は、モデルA19というもので、その格好はスタートレックの原作の第1作「宇宙大作戦」にでてくるU.S.S.エンタープライズのような形でした。またロータブレータ―を使うためのガイドワイヤー(針金のようなもの)は、C-wireとA-wireの2種類しかなくて、実際にはC-Wireしか使い物になりませんでした。

日本に正式に導入され、保険が効くようになったのは、1998年からで、その前に私は日本の病院にプロクター(指導医)として教えるようになりました。Matthews先生の推薦で、日米両国の医師免許を持ち、正式にBoston Scientific社からプロクター(指導医)の資格を初めて得ることができました。

1997年12月から千葉西総合病院に赴任し、それと同時にロータブレーター治療を日本でも積極的に展開するようになりました。

日本全国述べ140箇所の病院に指導医として赴きましたが、常に安全第一に施行してきました。ロータブレーターは、日本での導入当初は施設認定の基準が厳しく、心臓血管外科医が常駐していて、一定数の開心術を施行していないとロータブレーターも施行することができませんでした。その後施行施設が増えて、最近では心臓血管外科がなくとも、ロータブレーターは施行できるようになりました。

しかし、私個人の考えでは、これは非常に危険なことだと思います。なぜなら、ロータブレーターの合併症は血管損傷、ローターburrのスタック(ドリルが血管に挟まってそれなくなってしまうこと)、slow flow(血液の流れが急に悪くなること)など、通常のバルーンやステントよりはるかに重篤なことが多いのです。

従って、開始当初は、米国でも日本でも、心臓血管外科が常にバックアップを取れる体制が絶対条件でした。

私もこれまで過去25年間で約5,000例のロータブレータ―経験数をもっていますが、緊急手術が必要とされた場合は、12例(0.2%)でした。成功率は99.8%となりましたが、それでも100%ではありません。客船が航海に出るとき、必ず救命ボートや救命胴衣を用意すると思いますが、心臓カテーテル治療に対する心臓血管外科の立場も同じようなものだと考えています。

すなわち、心臓血管外科がいつでも危機的状況に対応できるような体制を整えてこそ安全に治療ができると、私個人は信じております。「この船は安全ですから、救命ボートも救命胴衣も要りませんよ」と言われても、「ああ、そうですか」と素直に信じて船に乗り込むお客さんよりも、やはり「大丈夫かな?」と思う人の方が多いのではないでしょうか。
ですから、私は今でも、どんなシンプルなロータブレーター症例であっても、心臓血管外科がすぐに対応できる状況であることを確認しています。

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ロータブレーターの変遷

初期モデルA19は非常に器具自体が大きく使いづらい点が多々ありました。そこで、ドリルの先端部分が着脱できるRota-Linkに移行したのが2000年のことでした。
Rota-Linkになってドリルの先端が着脱式になり、米国ではそのドリルだけを販売していましたが、日本では着脱が推奨されず、一体型として販売されました。着脱型になることによってburrスタックに対する対応も違ったものになりました。基本的に操作がやや易しくなりましたが、ロータブレータ―を実際に駆動させるのは足元のフットペダルであり、ドリル(burr)を操作をするのは手であるので、手足両方使う治療手技ということに変わりありませんでした。

それが長期続きましたが、2018年後半からフットペダルがなくなり、全て手元で操作できるRota-Proという新しいスタイルになりました。2018年12月14日、世界で初めて、Boston Scientific社によって供給された、Rota-Proを施行しました。
長年フットペダルに慣れていた関係で、最初は不慣れな点もありましたが、手元だけで操作でき、しかも動力源本体(コンソール)がデジタル表示になって、慣れると非常に使い易いことがわかりました。

ちょうど、手足を全部使って操縦する旧日本海軍の零式艦上戦闘機(ゼロ戦)から手だけで全ての操作ができるイギリス空軍のSupermarine Spitfireに変わったようなものです。以降、現在に至るまでロータブレーターはRota-Linkとして今でも第一線で活躍しています。

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ロータブレーターの有効性

冠動脈の石灰化は重症化すると、正にセメントのように固くなります。特に透析患者様や川崎病の患者様では、その石灰化がきわめて高度で、バルーンでは全く歯が立たないことも少なくありません。
そのような場合でも、ロータブレーターは99%以上の確率で打ち勝つことができます。

当院では、石灰化病変や血栓性の病変に対してエキシマ・レーザーという治療器具も2台用意していますが、こと石灰化に関しては、ロータブレーターの右に出るものはありません。このロータブレータ―出現により救命出来た患者様は相当数いるはずです。また保険適応ではありませんが、本来ロータブレーターの使用目的であった、閉塞性動脈硬化症(末梢動脈疾患)も極めて高度の石灰化を呈することが少なくありません。その場合、ロータブレーターを駆使して治療すると非常にうまくいくことが多いのです。現在外国では、ロータブレーターの末梢動脈疾患に対する適応も認められてきておりますが、日本ではまだ認められておりません。

まとめ

私が心臓血管カテーテル治療を初めて34年、バルーンによる治療から始まり、ロータブレーターとやや遅れてステントが導入され、その他の治療道具(TECアテレクトミーやDCA)は現在使われなくなりました(DCAは日本のごく一部でのみ使われています)。特に石灰化を伴うような病変に対しては、ロータブレータが絶大な威力を発揮しますが、その技術的な困難さは明らかで、十分な知識、訓練、経験が必要であり、合併症に対する対処も十分に心得ていなければなりません。

私は現在までにロータブレーターの教科書を3冊出版しています。
現在は絶版になりましたが、そのノウハウは全てこの書籍に記載されています。同じ内容を当院の私の弟子の先生方に今まさに伝授しているところです。まだまだ体力的にも全く問題なく視力も衰えておりませんので、今までに蓄積された膨大な経験を踏まえて、これからもロータブレーターを中心としたカテーテル治療に邁進していきたいと思います。

このページの著者

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千葉西総合病院院長・心臓病センター長
三角 和雄
Kazuo Misumi
  • 医学博士
  • 米国内科学会専門医正会員
  • 米国心臓病学会専門医正会
  • 日本内科学会専門医評議員
  • 日本循環器学会専門医
  • 日本心血管インターベンション学会指導医・評議員
  • 日本冠疾患学会評議員
  • 日本老年病学会専門医
  • 日本国医師免許
  • 米国カリフォルニア州医師免許
  • 米国ハワイ州医師免許
  • 紺綬褒章
  • ベストドクターズ(The Best Doctors in Japan™2004-2005/2006-2007/2010-2011/2012-2013/2014-2015)に選出。

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