今回は、突然起こった急性大動脈解離ではなく、元からあった大動脈瘤の破裂に対する診断の困難さにつきお話します。
この方は60代男性で、数年前から背中側の大動脈瘤に対し近くの病院で診察を受けておいででした。今回は、いつもの外来診察で”数ヶ月前から痰に血が混ざる”という話をなさいましたが、”様子を見よう”ということで3ヶ月程経過しました。その後全然良くならず、ある晩、大量の血液とともに胃の中の物を吐き(家族談)、意識もあやしいので救急車でその病院へ運ばれました。その頃は、ご本人の血圧が低く、いわゆるショック状態で、すぐに人工呼吸器につながれ、家族からの”血を吐いた。”という話から、すぐに胃腸のカメラが行われました。その結果、何も病気らしいものは見つからず、状態もやや回復しましたので集中治療室で治療をということになりました。以後、数時間何事もなく経過なさったのですが、胸のレントゲン写真は特に左側が白くなり、肺炎の像がひどくなってしまい、主治医は”血を誤って吸い込んだための肺炎(誤嚥性肺炎)”と診断し、肺炎の治療を主体に進めました。その病院の呼吸器科医師にも診察されたのですが、やはり”重症誤嚥性肺炎”で間違いないとの診断で、さらに強力な抗生剤が使われました。しかし、一向に良くならず、菌が血液に入り込み、2日後には血圧が不安定となったため、私どもに声がかかり当院へ移動となりました。
当院では、”大動脈瘤でかかっている。”という話から、もしやということでCTを撮影したところ、やはり、古くからある”大動脈瘤の破裂”で、それが、肺に接している部分であったため、肺から気道へ血液が上がり、あたかも”血を吐いた。”ように思われたのです。この後はすぐに、緊急手術になり、入院は長くなったものの、元気に退院なさいました。
この例は、後から話しを聞けば”なるほど”ということになるのですが、”血を吐いた”と言って駆け込んで来られ、しかもショック状態ともなれば、胃腸のみに原因が求められても無理はありません。後から診療に当たった私どもは運良く正しい診断に導かれましたが、最初にこちらにいらっしゃっていればやはり同様の診断で迷宮入りしていたかも知れません。今さらながらほっと胸を撫でております。
今回の例から学ぶべきことは、”大動脈瘤で診てもらっている”とか、”血圧が高い”とかいう家族の話は非常に大切であるということと、その話(ヒント)がなくても、”血を吐く”ということは、胃腸の病気だけでなく、大動脈瘤破裂も考えに入れておくべきであるということです。こういうことは”鑑別診断”という言葉で、学生時代や医師として駆け出しの頃に教えられ、”こういう症状から疑うべき疾患は何と何と何と何だ!?”と厳しく指導されるのですが、慣れて来るにつれ、ついつい、”これは○○に違いない!”と決めてかかることが多いものです。改めて、鑑別診断の大切さを認識致しました。”決め打ち”は危険だよと、またしても患者に教えられた一件でした。医療というのは本当に危険を孕む行為なのですね。
皆様にお話せねばならないような事柄をまた報告申し上げますが、皆様におかれましては、大動脈瘤や解離について知りたいことがございましたら、ぜひ連絡下さい。
大動脈瘤破裂、解離で大切な方との突然の悲しいお別れになってしまうのを未然に防ぎたい、その手伝いができればと思っております。連絡をお待ち申し上げます。
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大動脈センター 市原 哲也












