前回は、急性大動脈解離の治療、特に、緊急手術を必要とする場合について述べました。今回は、原則として緊急手術を必要としない急性大動脈解離について述べます。
緊急手術の必要がなくても、やはり、治療の第一は、痛みおよび死の恐怖の除去です。これは、前回述べましたので言及しません。痛みを除去しつつ、血圧の管理を行いますが、この頃には、緊急手術の必要性の有無が決まっているのです。それは、前回で述べましたように、上行大動脈に解離が及んでいるかどうかで決まります。従って、今回は、上行大動脈に解離が及んでいない場合の話ということになります。では、どこに解離があるのかと申しますと、上行大動脈以外にあるのです。
ここで、大動脈について、名前のおさらいをしておきます。心臓から出たすぐの上行大動脈は、胸の前から背中へグルっとヘアピンカーブする“弓部大動脈”となり、さらに、背骨の横ないしは上をまっすぐに降りて行く、“下行大動脈”、その先は、おなかに入り、“腹部大動脈”、そして、臍のあたりで二股に分かれ、いわゆる“末梢動脈”となります。上行大動脈以外の方が、長さの点では明らかに長いのですが、危険度は、“やや軽い”のです。勿論、“適切な治療”がなされないとほぼ100%亡くなることには間違いありませんが、この場合の“適切な治療”は、手術ではなく、厳重な血圧管理なのです。同じ大動脈に起こったことなのになぜ違うのかと申しますと、長い歴史の中で、さまざまな試みが行われた結果、この方が、治療成績がはるかに宜しいとわかったからです。ただし、“原則として”ですよ。
しかしながら、この“原則”通りでない場合、つまり、次の四つの場合には緊急手術の必要があります。
- 鎮痛剤で痛みが除去できない。
- 血圧制御ができない。
- 大動脈破裂の危険が予見されるほどの拡大(径5.5cm以上)、あるいは破裂の兆候が認められる。
- 胃腸や脚に血液が流れ難い、または流れていない。
この、四つの場合でなければ、緊急手術の必要はありませんが、油断は禁物です。入院時には、大丈夫でも、入院中、たとえば翌朝、あるいは1週間後に、急激に大動脈が膨らんだり、解離が上行大動脈に及んでしまったりすることがあり、その場合にはその時点で緊急手術が必要になるのです。
このように、原則として緊急手術の必要のない種類の急性大動脈解離でも突如として、緊急手術が必要になる場合があります。また、入院中なのに手術まで辿り着かれない、つまり、急激に容体が悪化して悲しい結果になることもあり、文字通り、目が離せない疾患なのです。大動脈の変化を常に警戒することが必要で、大切なのは、この“変化を察知する”ことでしょう。私共外科医の立場としては、「緊急手術の必要はないのか?」と、常に疑っていることが必要なのです。いえ、緊急手術をてぐすね引いて待っているわけではありません。それほど、この疾患は時々刻々と変化するもので、その変化を見逃すと、“命取り”になるということを肝に銘じて患者やその家族に接するべきであるということです。
このように、どちらを向いても危険ばかりなのですが、そういった“地雷”を踏まないで順調に治療が進んだならば、通常、約3週間で退院に辿り着くことができます。もちろん、最初の入院時に、緊急手術の必要がない種類の解離である場合にはですよ。退院後は、外来に通いながら、厳重な血圧管理と、半年毎のCT で大動脈の拡大(大動脈瘤形成)の有無を調べる必要があります。いわゆる“慢性期”の大動脈解離として加療されることになるのです。ここに到達して初めて、「一命を取り留めましたね。」と言うことができるのです。
今回は、急性解離の治療、中でも、緊急手術の必要がない場合について述べました。これで、大動脈解離および解離でない大動脈瘤についてのあらましをお話できたと存じます。今後は、皆様にお話せねばならないような事柄があり次第、その都度報告して参りたいと存じます。知りたいことがございましたら、ぜひ連絡下さい。
大動脈瘤破裂、解離で皆様の大切な方と突然悲しいお別れになってしまうのを未然に防ぎたい、願いはひとつです。連絡をお待ち申し上げます。
連絡先
電話番号:047-384-8111(代表)
(電話交換手より大動脈センターへお繋ぎ致します)
また、お問い合わせフォームよりメールを頂ければ、メール又は電話でご連絡致します。
大動脈センター 市原 哲也












