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大動脈瘤コラム(12)

急性解離は、ほとんどが胸や背中が猛烈に痛い、という症状で始まると言って間違いありません。ですから、「突然、背中が痛くなった。」とか「突然、胸や背中を蹴飛ばされたかと思った。」とかいう症状で来院なさった方は、余り、時間をかけることなく急性解離という診断に辿り着くのです。しかしながら、中には、胸や背中の痛みで始まらない、あるいは、病院に到着なさった時には、全然別の症状を訴え、数十時間経ってから、やっと、急性解離の診断が確定する場合があるのです。

今回は、「えーっ、こんな急性解離あり!?」と題しまして、二人の方のお話を致します。

最初の方は、68歳男性、夜、入浴中、洗い場で気を失って倒れ、その物音で家族が駆けつけ、救急車で近くの救急病院へ運ばれました。当然、救急隊員は、病院の救急外来に連絡する際、「意識不明で、血圧は上が170、脳梗塞あるいは脳出血が強く疑われます。」と報告しますので、外来スタッフは、脳卒中を想定して、患者の診療にあたりますね。まず、頭のCT(断層撮影)が行われますが、これには異常が認められず、血圧を下げる薬(降圧剤といいます。)の点滴で様子を見ることになります。血圧が落ち着いた時点で、集中治療室(ICU)に移り、意識が戻るのを待つのですが、なかなか戻りません。ここまで、既に8時間が経過し、入院翌朝になっています。ここで、医師の間にも仲間の医師に引継ぎがあるのですが、やはり、「脳梗塞初期で、CTには何も変化が認められない。」と言われると、「じゃあまた、今日の夕方にでもCTだね。」ということになり、脳梗塞の治療が続けられます。

この方はここからが、運が宜しいのです。予定通り、その日の夕方CTが行われるのですが、オーダーは「頭部CT」だったのですが、間違って、頭部と「胸部」CTが行われたのです。その結果、急性解離、しかも手術が必要なタイプ(スタンフォードA型というものですね。)であることがわかり、そこから、当方へ連絡が入り、発症後、約24時間経って、緊急手術に辿り着いたのです。この方は、幸いにも元気に退院なさいました。

次の方は、57歳女性、卓球中に突然意識を失い、救急車で近くの病院に運ばれました。最初に頭のCTが行われますが、例によって、「異常なし。」でしたが、他の疾患は疑われず、降圧剤経過観察ということになるのです。1時間後、急激に血圧が下がるのですが、降圧剤の効き過ぎだろうということで、今度は血圧を上げる薬(昇圧剤といいます。)の点滴が始まり、今度は血圧が上がり過ぎ、昇圧剤を止めて降圧剤をまた始め、ってなことを繰り返しておりました。そのうちに、血圧が上がらなくなり、その患者の首から上が青黒くなって参り、心臓超音波検査(エコーですね。)を行いますと、心臓の周りに、血液らしいものがいっぱいたまっており、それによって心臓が圧迫され、十分な血圧を出せない状態であることがわかりました。ここまで、来院後5時間が経っています。その検査の最中には、わかりませんでしたが、そのビデオが2時間後に見直され、そこで初めて、スタンフォードA型急性解離であることがわかったのです。それから私どもに連絡が入り、手術準備をして待っておりましたが、搬送前に先方の病院で心臓が止まってしまい、残念ながら、手術に辿り着けませんでした。発症後約 10時間の出来事でした。

このように、いかにも、脳卒中を強く疑わせる急性解離が混ざっているのです。調べてみますと、急性解離の約3%、つまり、100人中3人は脳卒中の症状で始まると言われるようです。前にも述べましたように、急性解離のほとんどが胸や背中の痛みで始まるものですから、そうでない場合には、正しい診断に辿り着くのは非常に困難なのですね。私もひやっとすることがよくあります。

いかがですか?急性解離というのは、恐ろしい病気であることはもちろんなのですが、実に巧妙な手口で命を奪い去る魔物のようですね。この魔物の手から患者を救うためには、見逃すとそのまま死に至る病気を片っ端から疑う以外にはないのです。

どのようなことでも結構ですので、連絡下さい。何らかのお手伝いができれば幸いです。
連絡をお待ち申し上げます。

(13)に続く

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大動脈センター 市原 哲也